非常用電池式受信機
Battery Operated Radio for Emergency Use

 1941年4月から「地方の時間」という番組が開始された。
これは地方の官公所向けの周知事項を放送するもので、これを聴取するために、電気の無い、または昼間送電されないような僻地においてもラジオの受信が必要になった。この番組は戦局の悪化に伴い情報伝達が困難になったことから戦争末期の1945(昭和20)年5月には「官公署の時間」としてより拡充された。
 電力事情が悪い中でこのような放送を聴取するために「各省非常用受信機」として電池式の5球スーパーが量産された。

 この受信機のおもしろい点は、電池専用であるということである。
以前から存在した国防受信機は12Fの整流回路を持った交直両用のため、地方の家庭用として使われたものもあったが、直流専用では電池のコストと入手の点で一般家庭が使用するということは不可能である。
この受信機は家庭用というより電力事情が悪化した状況下で情報を確実に官公庁に伝達できるように配備する目的で製作された公用の非常用受信機である。価格は1943年の公定価格で一級品99円70銭となっており、小型ダイナミックを使った交流用5球スーパー(2A7-58-57-2A5-80)と、ほぼ同じ価格が設定されていた。

 当館に松下無線製のナショナル国民150号型の極めて程度のよいものがある。
写真のとおり5球スーパーといっても20cmマグネチックスピーカを使っていてキャビネットも小ぶりで簡素なデザインになっている。
製造時期は不明だががスピーカーの認定日が1941.9.30で期限が1945年まであることから、第2次大戦中のセットと見て間違いない。

   

     松下無線 ナショナル国民150号型 電池式5球スーパー

   回路は高周波増幅付き中間周波1段の5球スーパー(電池式なので整流管はない)で、球の配置は
  UX167 – UZ1A6 – UX167 – UX167 – UY169の国産オリジナルの電池管を中心としたものとなっている。
  松下の受信機は通常「マツダ真空管使用」だが、この受信機では珍しく「トウ」の球で揃っている。
  交流式の受信機を見慣れた目で見るとデカップリングやバイアス回路が簡単な分、ずいぶんとシンプルに見える。
  受信周波数帯は550-1500kcのBCバンドのみ。


 日本放送協会普及部受信機課制作の「各省非常用受信機仕様書」(以下仕様書と略す)を見ると、有線放送同調器内蔵となっているが、この松下の受信機には付いていない。
これが非常用受信機の規格から外れたものなのか、有線放送が実施されていなかった地域向けにこのような仕様も認められていたのかは不明である。

 電源はA電池として1.5Vの角型積層電池(平角2号2個並列相当)を2個直列にしたもの、B電池として45V積層電池を2個直列して90Vとしたものが標準として付属する。
電池は国防受信機のようにキャビネットに内蔵するのではなく、外部の電池箱に収納して電線で接続するようになっている。
説明書によると1日2時間使用した場合でA電池は約6ヶ月、B電池は約3ヶ月使用できるという。
また、未使用で保管しても半年以上経過すると使用に耐えなくなることが多いと記述されている。
電池の質が低かったことを忍ばせる記述である。
このため非常用受信機には乾電池の他に予備用として保存性に優れるソーダ電池(A用)、空気乾電池(B用)が付属された。
ソーダ電池はガラスビンに電極を付けて電解液を入れる形の電池で、液を抜いた状態で供給され、使用する前に組み立てるようになっている。空気乾電池は空気を遮断する木栓を付けた状態で1年以上保存できるという。

 A電圧はラジオ放送初期の電池式受信機のように直列に入れられたレオスタットで加減して使用するようになっている。
ただ、電池の消耗にしたがって音量が低下したときに調整するだけなので調整つまみはシャーシ背面に設けられている。

 他に付属品としては予備真空管1組が含まれている。
おもしろいのは説明書に「1年位使用すると能率が下がるので予備のものと取替えたほうが良い」と書いてあることである。
電池用真空管はそんなに弱かったのか。電池を消耗させないための親切心からの記述かもしれない。

 使用法については基本的にスーパーなので特殊なことはない。
フィラメント電圧調整用のレオスタットを音量が下がったら調整するという点が特殊といえば特殊である。
また、当時は電灯線アンテナやアースアンテナで使うことが多く、説明書に電池式なのでアースアンテナでは使えない旨の記述がある。

 生産台数などについてははっきりしたことは不明だが、ラジオ年鑑昭和22年版などの記述を参考にすると、昭和19-20(1944-45)のスーパーのかなりの部分がこの非常用受信機であったと思われる。
この2年間のスーパーの生産台数は通産大臣官房調査統計によれば1944年が1952台、45年がわずか166台というわずかな数である。
前年の43年の台数は12,893台と、かなり多いが、このうちどのくらいが非常用受信機かは明確ではない。

(初出:AWC会報)


参考文献

各省非常用電池式受信機仕様書  日本放送協会普及部受信機課

各省非常用電池式受信機取扱の栞 日本放送協会普及部受信機課

ラジオ年鑑 昭和18年版 日本放送協会編 日本放送出版協会

ラジオ年鑑 昭和22年版 日本放送協会編 日本放送出版協会

ラジオテレビ年鑑 1955年版 ラジオテレビ新聞社

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